In 国分寺ブックタウン

【みんなでつくる物語2015 全文公開】
 
書き出しは大岡玲先生。それから延べ58名が参加してつくった物語の全文公開です。

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《あなたの森の入口は、こちら》 散歩の途中でふと目に入った小さな立て看板には、そう書いてあった。しかし、看板が立っているのは住宅街の中の狭い空き地で、あたりには森などまるで見当たらない。
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一歩看板に近づいてみると、穴ぼこに落ちていく感覚にみまわれた。どこまで落ちていくんだろう。真っ暗なタテのトンネルが続いている。長い長いトンネルを抜けると、そこは海だった。
 「森じゃないのかよ!!」 
思わずセルフつっこみをしてしまった。真っ白な砂浜に太陽の光が反射してキラキラと輝いている。魚が泳いでいた。鳥もまた泳いでいた。まぶしい。そうだ、海の中に潜ってみよう。もぐってみれば、そこはきれいなうみだった。さかながこっちによってきてはなした。
「あなたはだぁれ?」 
「私は林です。」 
「森じゃないのかよ!!」 
今度はつっこまれてしまった。 

その時、NASAから、月が地球に近づいてきている。あと2時間後には、地球が…。地球の存亡なんて、僕に関係あるのだろうか…。このところの、暗い気持ちを引きずったまま、僕は考えてしまう。

「そんなことより、お腹がすいたなぁ」 
そんなわけで、近くのそば屋で月見そばを食べることにした。たまごの黄身が輝いてボクを見つめている。箸で潰すのにいささか躊躇していると隣のおじさんが突然叫んだ。

「それが入口だよ。」おじさんの声に驚き、思わず黄身を潰してしまった。すると…「こんなはずじゃなかった。」と、どこからか声がした。「き、黄身!?キミが喋ったのかい!?」しかし、黄身はこたえなかった。試しに潰れた黄身をそばにからめてみた。するとそこには… とろとろの黄身をあたまからかぶって、シトシトリン、と光っている森の精のお迎えの女神が、テーブルのはしおきの上に、すわっていました。とりあえず、一緒におそばを食べました。その上には、ねぎ、かしわ天がありました。 

「わぁ。おいしそうだな。」と、目をキラキラさせながら言った。 おそばを食べ終わると、女神はおもむろに言いました。 「さぁ、行きましょう。皆さんがお待ちです。」「そんなことより、そば湯がまだ来てないじゃないか!」時間軸を、誰かが操作したのかも知れない。心の声を忘却のかなたに、押し込め、ふと手元を見ると、行き先不明の片道切符が置いてあった。 
「あ!!そうだ!!森へ行くんだった!!」列車に乗って遠くの、ずっと遠くの森へ行くんだ。線路は、水の中にあった。列車の窓からたくさんの魚が見える。本当に森に着くのだろうか。他には、誰も乗っていないな。っとその時…。ジンベイザメがとびついてぼくに、チューをしてきた。とてもびっくりした。列車はその瞬間爆発してしまった。 
どのぐらい時間がたったのだろうか。気がつくと、そこは森だった。「そうだよ!ここが森なんだ!!」するとその時、うしろでガサッという物音がした。その物音の主は、片道切符をくれた女神だった。女神は言った。 切符代とそば湯代。おあいそ忘れてるよ」 困った。お金は持ってない。ジンベイザメを竜田あげにしたくても、爆発していない。何か変わりになる物を探してポケットに手をつっこむとそこには…。なんということだろう。ジンベイザメのヒレの破片があったではないか。これがどれほどの価値があるか見当もつかないが、ジンベイザメにチューされたときの思い出という付加価値をつければそれなりの代金にはなると思われた。 
でも…「ええい!めんどくせえ!食い逃げだ!」ぼくは全速力で森の中を走りだした。大きな石を飛びこえ、小川のせせらぎを飛びこえ、ぼくは走りに走った。走っていると、うしろから「おーい、まってくれぇ~」という声がする。だれだろう?振り返ると、そこにいたのは可愛らしい大きな体の、クマのプーさんだった。 
「可愛らしい容姿に惑わされたかぁー残念だったなぁ俺だよ代金は払おうぜ兄ちゃん。」クマのプーははちみつをこねくりまわしながら「お前をはちみつづけにしてやるぜ。へへへっと」と近づいてきた。すると大きなくりの木から声がした。「まちやがれクマのプー!!」 女神だった。「あんたに集金を頼んだおぼえはないわ!」二人が口論しているスキにぼくは栗の木のうしろに姿を隠した。息を潜め呼吸を整える。唇にはジンベエザメの生温かい唇の感触が確かに残っている。 
すると背後から先ほどのおじさんの声で、「蕎麦湯を頼んでから、目の前に切符を見つける間、時間が飛んだように感じなかったか。君、いや過去の僕…は、やつらが仕掛けた月の接近のせいで本来の分岐点から外れてしまったんだ。」というのが聞こえた。「そうだったのね。」女神だった。「だいたい、あんた林でしょ。林ならライスを食べなさいよ。林はライス。森ならソバでしょっ。だからこんなことになるのよっ。」「そんな…」 とはいえ、あの月見そばは美味だった。
僕は食い逃げをしたことに罪悪感を覚えた。その罪悪感を忘れるために、青く澄み渡たる空を見上げると… そこは海の裏側だった。 僕は海の底にいて、列車の窓からゆらめく海の裏側を見つめていたのだった。涙がとまらなかった。なぜか分からないけれど、海の底で見上げた天は、僕に何も言ってくれない。そうか。僕はここで生まれたんだ。ジンベエザメが、うったえかけるような眼で、僕を見ている。「林ならライスを食べなさいよ。」女神の声にふりむいたボクは、その顔を見て驚いた…。ナント!それは妻の顔だった。そして気づいたら、また穴ぼこへと落ちていた。 
次は、一体どこへ行くんだ?海か、そば屋か、森か…それとも…ジンベイ。そう僕はじんべいを織らなくてはいけないのだ。きっと温かく僕を療してくれる。糸は糸はどこにあるのだ。そうだ!今日、僕は毛糸のセーターを着ていたではないか!そう思って自分の体を見下ろすと、何とセーターは僕のあばらの辺りまで短かくなっていた。穴に落ちる時に、端がどこかに引っかかったのだろうか?あわてて穴の方を見上げると、はるか上空の方に見える穴の縁で、毛糸の端をもった妻がニヤリと笑った。
「私の旧姓を覚えているわよね。」妻は、得意げに言った。「当然だとも!!」と即座に僕は答えた。彼女の旧姓は忘れもしない!彼女の旧姓は「仁米(ジンベイ)なのだ。思い返せば、僕が彼女に惚れ込んだ理由は、彼女の悠然とした態度だったのだ!何事にもとらわれない悠然とした生き方。僕のあこがれが、一気に目の前に現われた!それが彼女だったのだ。忘れることなんてできないよ!」 彼女の悲しげな目が僕をとらえる。「昨日は11月22日。いい夫婦の日だったのに。あなたはジンベエのことしか頭になかったのね……」でも、僕はじんべいを織ることを一心に考えている自分に気づいた。妻とおそろいのじんべい…。僕達の結婚記念日は、今日、いい夫婦の日の次の日なのである。 
ぼくたちの出会った頃を思い出してみよう!そう、11月23日、いいふみの日だったじゃないか。「そうだったね、森に行くんだと心に決めて、そこにきっと幸せがあると信じて、ここまで来たんだよね。」「うん。でもそこには幸せの鍵になる文はなかった。ぼくたちは、これからいつまで待てば幸せになれるか、疑いを持ちはじめたよね」「そこへ、森の木の上から、はらはらと色づいた葉が、一枚、また一枚と散り始めた」そうなんだ。幸せのキーワードは、ぼくたちが求めるだけでなく、季節の中に、自然の中に、隠されていたんだ。言の葉の意味がやっと判ったんだったね」
「幸せがすぐ身近にあることに気付いたら、お願いがあるの。11月23日に間に合わなくても、おそろいのじんべいを織って下さい。模様は森の木の葉にして下さい。できたらそれを森の木に掛けて陽にあてましょう。おひさまと森のにおいで、冬の間暖かく暮らすことができるでしょう。」【終】

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